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蝉の羽

蝉の羽1枚目

八月上旬、最高に暑い季節。ここを先途と蝉が鳴き騒いでおります。蝉の声は日本人にとってはありふれた夏の風物詩ですが、イギリスやドイツなど北部ヨーロッパの人々にはなじみのない「音」のようです。以前、夏を描いた日本映画がヨーロッパに輸出された時、「内容は良いのだが、あの『雑音』がうるさくてならない」という評判がたったとのこと。聞きなれない人にとって、蝉の声は訳の分からない雑音なのでしょうね。

日本では昔から蝉はポピュラーでした。するりと脱いだ十二単を、セミの抜け殻に例えた「空蝉」は皆様ご存知ですね。そうそう。面白いのは本居宣長は『玉勝間』で語源説を語っています。

「蝉は、せみせみとなけば、其声によれる、本よりの名か、字ノ音をとれるか、これらはわきまへがたし」

セミって「せみせみ」鳴きますかね??「字ノ音を」取るというのは、中国発音の「ゼン」を「せみ」とした、という意味です。

今日の重色目は「蝉の羽」です。 表は檜皮色、裏は青。焦げ茶色っぽい「檜皮色」はセミらしいですが、グリーンは?と思いますよね。でも、セミの羽化をご覧になればズバリ解決。羽化したてのセミの羽は、淡いグリーンのレースの編みようで、それは美しいものです。それが羽化後数時間で、普通見られるセミの色になります。この重色目は、その僅かな時間の移ろいを表したもののように、私には思えます。

羽化後に残されたわずかな時間、燃えるような勢いで鳴く蝉の声。この暑苦しい「騒音」すら季節の風物詩として楽しんできた日本人は素敵だなぁ。

(有職故実研究家 八條忠基さん Facebook投稿より)