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山吹①

山吹①1枚目

山吹は平安人に好まれ、重ね色目が何種類もありますし、文献上にも様々に登場。その華やかな色彩が愛され、男女ともに盛んに装束に用いました。

『源氏物語』(末摘花)
晦日の日、夕つ方、かの御衣筥に、『御料』とて、人のたてまつれる御衣一領、葡萄染の織物の御衣、また山吹か何ぞ、いろいろ見えて、命婦ぞたてまつりたる。

『源氏物語』(玉鬘)
曇りなく赤きに、山吹の花の細長は、かの西の対にたてまつれたまふを、上は見ぬやうにて思しあはす。

華やか、ゴージャス、といった演出の時にヤマブキ色は用いられたようです。物語だけでなく、リアル世界でも紫式部は……

『紫式部日記』
三日は、唐綾の桜襲、唐衣は蘇芳の織物。掻練は濃きを着る日は紅は中に、紅を着る日は濃きを中になど、例のことなり。萌黄、蘇芳、山吹の濃き薄き、紅梅、薄色など、つねの色々をひとたびに六つばかりと、表着とぞ、いとさまよきほどにはべる。

やはりゴージャスな装束の中にヤマブキを登場させています。男性装束としては……

『助無智秘抄』(不詳・鎌倉前期?)
辰日節会。 人々ミナソクタイナリ。タゞシ預蔵人朝ハ宿衣ヲキルベシ。アヲイロナリ。モクランヂノオリモノノサシヌキニ。ダシギヌ欸冬ヲモチ井ル。

え?ヤマブキが登場しない? いえいえ「欸冬(かんとう)」というのがヤマブキの別名なのです。新嘗会の辰日節会に際し、「預」や「蔵人」といった人たちは出衣にヤマブキを用いた、とあります。

しかし、ヤマブキが登場する古典で、一番有名なのはコレかもしれませぬ。

『後拾遺和歌集』(兼明親王)
小倉の家に住み侍りける頃、雨の降りける日、蓑借る人の侍りければ、山吹の枝を折りて取らせて侍りけり、心も得でまかりすぎて又の日、山吹の心得ざりしよし言ひにおこせて侍りける返りに言ひつかはしける。
七重八重 花は咲けども山吹の
実のひとつだに なきぞあやしき

勉強になりましたかな?太田道灌クン。
なお、実がならないのは八重咲の花。普通の一重の山吹は、秋にはちゃんと実がなりますよ。山吹と限らず、八重咲き品種の植物は、雄しべが花びらに変化したという関係で、原則として結実しません。八重桜もそうです。

画像は、一重咲きの山吹と、重ね色目の「青山吹」(上)と「裏山吹」(下)です。この山吹は一重咲きなので、実がなります。

(有職故実研究家 八條忠基さん Facebook投稿より)