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菫1枚目

路傍のコンクリートの割れ目に生えるスミレ。「ど根性」よろしく美しい花を見せてくれています。 スミレは日本には昔から存在していましたので、重ね色目は当然ながらあります。

『胡曹抄』(一條兼良・室町中期)
すみれの衣<面紫裏薄紫>、つぼ菫<面むらさき裏薄青>

ところが文学作品などではあまり見る事が出来ないのが不思議。

『枕草子』
草の花は(中略)壼菫、すみれ、同じやうの物ぞかし。老いていけば同じなど憂し。

たしかに清少納言が言うように、スミレとツボスミレは同じようで、なかなか見分けが付きません。現代においては、葉が細長いのがスミレ、ハート型なのがツボスミレとされます。「壺」(坪)は、内裏の藤壺や桐壺と同じように「小庭」を意味し、「庭に生える菫」という意味。「老いていけば同じなど憂し」は、何のことを指して言っているのか、諸説あるようです。「美女もオブスも、おばあちゃんになったら同じようなもの」という意味ですかね(笑)。

『徒然草』(第26段)
堀川院の百首の歌の中に、
昔見し 妹が墻根は荒れにけり
つばなまじりの 菫のみして
さびしきけしき、さる事侍りけん。

うらぶれた風情に相応しい花、ということなのでしょうか。ほかにもスミレを詠んだ歌はありますが、みな同じようなイメージ。雅やかさより逞しさ? 確かに木陰半日蔭でも元気に生える「ど根性ぶり」を見ますと、さもありなんという気がいたします。花の風情を「可憐」とするようなものは見あたりませぬ。スミレの花、可愛いのになぁ…。
スミレは大工道具の墨壺、「墨入れ」が語源だと人口に膾炙しています。これは牧野富太郎博士が言い出したことなのですが、現在見る古靴?のような墨壺は江戸時代の形状といわれます。

『和名類聚抄』(源順・平安中期)
菫菜 本草云菫菜俗謂之菫葵<菫音謹、和名須美礼>

万葉仮名で「須美礼」と書かれるスミレの語源説としては墨壺説は弱く、どうも語源に定説はないようです。
写真のスミレは、コスミレ(小菫、学名:Viola japonica)ではないかと思いますが、スミレの仲間は変異が多いので何とも。「スミレ」というとスミレ属の植物全般を指すイメージですが、ややこしいことに「スミレ」という固有種があります。スミレ(Viola mandshurica )です。学名は「満州の菫」ですね。コスミレは学名が「Viola japonica」で、「日本の菫」。
そして『胡曹抄』の「つぼ菫」の重ね。表が紫、裏が薄青です。

(有職故実研究家 八條忠基さん Facebook投稿より)