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櫨紅葉はじもみじ

櫨紅葉1枚目

東京ではカエデの紅葉(こうよう)は、見事に真っ赤になることが少ないのですが、そんな東京でも、例外なく綺麗に紅葉するのは「櫨(ハゼ)」でございます。

ハゼノキ(学名:Toxicodendron succedaneum)はウルシ科の植物で、ウルシらしい羽状複葉の葉付が特徴。かつてはロウソクの原料として盛んに栽培されました。また天皇の位当色である「黄櫨染(こうろぜん)」という色は、ハゼノキを用いた染色で、『延喜式』によれば、綾一疋を染めるのに「櫨十四斤、蘇芳十一斤、酢二升、灰三斛、薪八荷」を用いた、とあります。

そんなハゼノキは、何と申しましても紅葉が美しく、本日ご紹介した写真は昼休みの散歩中に撮影したものですが、もう真っ赤に染まっておりました。こういう美しさですから、有職の色彩世界でも華やかな色の取り合わせとして「櫨紅葉(はぜもみじ)」の重ねがございます。

『満佐須計装束抄』(源雅亮・平安末期)
十月一日より練衣綿入れて着る。
櫨紅葉。
黄なる二。山吹。紅。<黄ナルハ一ツニテ山吹ヲ匂ハカスナリ>。蘇芳。紅の単。

『今鏡』(宮城野)
皇后宮は上赤色にて下ざま黄なる櫨紅葉の、十ばかり重なりたるに、表着に同じ色に、やがて濃き蒲萄染めの小袿のいろいろなる紅葉うち散りたる二重織物奉りたりけるを、見参らせたる人の語りけるとなん。

これらは平安末期、平清盛が勢いを増していた時期の記述ですが、非常に華やかな、「過差」(ぜいたく)極まる時代に相応しい色彩です。いわば「バブルファッション」?それ以前の『源氏物語』等の時代にはあまり見かけられない色彩表現ですので、この時代ならではの「今様色」(流行色)なのかもしれませんね。

『餝抄』(中院通方・鎌倉時代)
出衣
仁安三(1168年)十一。故殿(通親)櫨紅葉五重<ヲメラカス>。面織物。紅紅葉三。青単衣。

これまた平家全盛の時代。
「出衣」というのは、牛車の簾の下から、美しい十二単の裾の重なりを見せる、一種のデコレーション。古くは男子が乗るとき、女子が乗っているように見せかけるために行ったこともあったようですが、ゴージャス志向の平安末期は、パレードの見せ物的な意味も込めて、公卿たちがマイ牛車に趣向を凝らした出衣を見せて、美的センスを競ったのです。この櫨紅葉の出衣をしたのは源通親(1149-1202)。村上源氏の隆盛を築いた人物で、平家に負けないゴージャスさを打ち出したわけですね。

男子用の重ね色目もありました。

『胡曹抄』(一條兼良・室町中期)
衣色事(中略) 櫨紅葉 面蘇芳、裏黄

こちらは表が蘇芳色(えんじ色)ですので、少し落ち着いた色合いになります。少し深まった秋、という風情でしょうか。

写真は職場近所のハゼノキ、その落ち葉。
そして『満佐須計装束抄』にある「櫨紅葉」の襲色目でございます。

(有職故実研究家 八條忠基さん Facebook投稿より)