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おうち

楝1枚目

「楝(おうち)」満開の時期。

「楝」は漢字を見たこともなければ、「おうち」なんていう単語も聞いたことがない、という方が多いのではないでしょうか。この「楝」は、センダン(学名: Melia azedarach)の古名なのです。センダンは「栴檀は双葉より芳し」のことわざで知られますが、その中国の「栴檀」は白檀(ビャクダン)のことで、今回のセンダンではありません。

例によっての植物名称の混同。インドから中国に来る間、中国から日本に来る間に、イメージの似た別の植物に名前が置き変わってしまったものです。センダンも多少芳香がありますので、いつの頃にか「たぶん同じ」と、栴檀(白檀)の名前をくっ付けてしまったのでしょう。あるいは、たくさんなる実が玉のようなので「千玉(せんだま)」から来たという説もあります。

そのセンダンを、古くは「楝(おうち)」と呼んでいたのです。これなら栴檀(白檀)と混同しないで良いと思いますよ。
職場の近所に児童公園があるのですが、そこに植えられているので空き時間に写真を撮って来ました。花の季節が短いのでタイミングが大切。

『続齊諧記』(梁呉均(469~520 ))
五花糸粽 屈原五月五日投汨羅水、楚人哀之、至此日以竹筒子貯米投水以祭之。(中略)今若有恵、当以楝葉塞其上、以綵糸纒之。此二物蛟龍所憚、曲依其言、今五月五日作粽、并帯楝葉五花糸遺風也。

五月五日に「粽(ちまき)」を食べるのは、汨羅に身を投げた屈原が龍にいじめられているのを助けるため、と言う説もあるのは皆様もご存じのとおり。楝の葉と色糸は龍が嫌うので、粽に巻き付ける、とあります。しかしこの風習は日本ではポピュラーにならなかったようです。

『延喜式』(大膳職)
五月五日節料
粽料、糯米、〈参議已上別八合、五位已上別四合〉大角豆、〈五位已上一合〉搗栗子、〈参議已上四合、五位已上二合、〉甘葛汁、〈五位已上一合〉枇杷、〈参議已上二合、五位已上一合、〉笋子五圍、箸竹、串竹、各三圍、青蒋十一圍、生糸三両一銖、鮮物臨時買用、〈参議及三位已上料、七月九月准此、〉大陶盤、洗盤、各四口、叩〓五口、〈並納煮雑物、九月節盤亦同〉

うむむ、「楝葉」は出てきませんね。日本では、楝にあまり魔除け効果を感じなかったのでしょうか…。いえいえ。

『改正月令博物筌』(鳥飼洞斎編述・1841)
柏餅〈むかし、あふちの葉につヽめり、柏も神道に用ゆるめでたきものなればもちゆるなるべし、すべて今日のかざりもの、毒邪を払ふため也。

毒邪を払うために、柏餅を昔は楝の葉で包んでいた、とあります。しかし実際の楝の葉1枚は小さく、それだけでは包めませぬ。柏葉に添えたものか、当時の楝は今のものとは違うものを指していたか、ということになりますね。
重色目は、今の季節に使う「楝重ね」。
表が「薄色(薄紫のこと)」、裏が「青(グリーン)」の重ねです。

(有職故実研究家 八條忠基さん Facebook投稿より)