栗の実の落ちる頃。
周辺に落ちている栗の実も、先客?にとられております。唯一、残っているのを発見いたしました。
『源氏物語』(行幸)
あはれなる御心ざしなりかし。青鈍の細長一襲、落栗とかや、何とかや、昔の人のめでたうしける袷の袴一具、紫のしらきり見ゆる霰地の御小袿と、よき衣筥に入れて、包いとうるはしうて、たてまつれたまへり。
この「落栗」という色彩表現と思われる単語について、過去、様々な解釈が試みられました。
『河海抄』(四辻善成・室町初期)
落栗色こき紅也 合袴は中重のなき袴也 うつほの物語にもあまたあり『類字源語抄』(師成親王・1431年)
おちぐり色とは、こき紅の色なり。『花鳥余情』(一條兼良・1472年)
こき紅にくろみ入たる程にそめたるを云べし。『岷江入楚』(中院通勝・1598年)
紫の白らみきばみたる色歟、よからぬ色たる歟、うはしらみと書たる本もあり、しらみ、くろみたる色也、下を薄紅にそめて、上を紅に染たるなり、其色のそこねたるなり、紫のしらみたる色なり、是は落栗色の注也、或説に、下地を薄紫に染て、上を紅にてそめたる色也云々。弄花抄云、紫のしらみ、きばみたは、落栗色の程也云々、然共霰地の小褂の色と見るべき歟。
……これらをまとめますと「落栗」色は、祝儀に用いられた女袴の色、「濃色(こきいろ)」とも呼ばれる濃蘇芳(濃いエンジ色)のように読めます。現代では「未婚者の袴の色」とされていますね。「昔の人のめでたうしける袷の袴」とありますので、祝儀の袴の色、「濃色」だという印象が強くなります。
写真は落ち栗と、江戸時代の『薄様色目』に見られる「落栗色」の重ね色目。表蘇芳/裏香の組み合わせです。
(有職故実研究家 八條忠基さん Facebook投稿より)