室町時代は将軍の勢威が低下し、その実権は管領家へ、更に守護大名へ、以下家臣群へといわゆる下剋上の時代風潮は庶民の地位の自由、向上となり、生活は活気を帯び、産業も発達し、分業が増加してくる。
生産や流通に携わる人々は農民以外に職人などといわれ、その生活する姿が諸種の絵巻物に描かれ、文学にも職人歌合などが取り上げられ、庶民の心情がその題材となっている。
「東北院職人歌合」「鶴岡放生会職人歌合」「三十二番職人歌合」「七十一番職人歌合」など前二者は13世紀中頃のもので鎌倉時代に既にその姿がうかがわれ、後の二者は15世紀末か16世紀初めの室町時代のもので、それぞれに公武家に属さない人々の姿が描かれている。
ここでは後者を参酌して物売りを表現した。柔らかい烏帽子をかぶり、麻の筒袖に括袴をはき、脚には脚絆、草鞋、肩には売り物を入れた籠を前後に振り分けて、担い棒でかついでいる。
かぶりものはこの他、折烏帽子も見られ、露頭の図もある。
男子物売り姿
A peddler in Muromachi era.